有用性(Utility)について~カナダ特許法第2条(section 2 of the Patent Act)

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カナダの主な特許要件は、新規性、進歩性、有用性であると言われています。このうち有用性を具備するためには、具体的に明細書にそのように使える根拠が示されているか、あるいは、明細書の記載からそのように使えることが予測できる必要があります。後者の場合をカナダではSound Predictionと呼んでいます。Sound Predictionは、特に予測の困難な医薬及び生物の分野で利用されますが、出願時の技術常識として出願前の文献等を示しても、明細書の記載が乏しいと認められないケースもあります。しかし、2014年の連邦裁判所の判決により、第二用途発明(既知物質の新規用途発明)以外においては、明細書の記載要件を厳しく課すべきではないとの判断がされました。

有用性とSound Prediction

カナダ特許法第2条は、発明(inventions)を以下のように定義しています。 -"invention" means any new and useful art, process, machine, manufacture or composition of matter, or any new and useful improvement in any art, process, machine, manufacture or composition of matter

この定義に基づき、カナダでは特許権付与の要件として『有用性(utility)』が求められています。原則として、請求項にかかる発明の有用性は、特許出願時に証明されていることが必要とされています。 しかし、特に化学や生物の分野においては、請求項に記載された全ての範囲についての有用性を実施例で証明することは困難であることから、例外的に特許出願時に予測可能な範囲まで有用性を認めることがカナダ最高裁判所の過去の判例により確立されています(doctrine of sound prediction)。よって、Sound Predictionは、実施例に記載された範囲を拡張して有用性を認めるための論理であり、特許請求の範囲の全てについて実施例で直接的に有用性が示されていない場合には、Sound Predictionに基づく有用性があることを示すことになります。

Sound Predictionの要件

カナダ最高裁判所はApotex Inc v Wellcome Foundation Ltd, 2002 SCC 77において、Sound Predictionの要件を具体的に示し、従来のSound Predictionの実務を大きく変えました。これにより、Sound Predictionにより実施例に記載された範囲を拡張して有用性が認められるためには一定の要件を具備することが必要となりました。具体的には、前記判例において示された、Sound Predictionが認められるための用件は以下のとおりです。

i. 予測のための事実的根拠がなければならない
ii. 前記事実的根拠から所望の結果が推察できるような、明確で妥当な一連の理由を出願時に有していなければならない
iii. 特許出願明細書中に十分な開示が無ければならない

Sound Predictionの要件は、カナダ特許出願時に具備していなければならないと考えられています(Aventis Pharma Inc. v. Apotex Inc., 2006 FCA 64, [2006] 4 F.C.R. D-33)。

Sound Predictionを満たすための明細書の記載

最高裁判所はSound Predictionを満たすための事実的根拠が明細書に記載されているべきとは明示していないにもかかわらず、連邦裁判所はSound Predictionを適用する全てのケースにおいて「事実的根拠」及び「妥当な一連の理由」は明細書に記載されているべきとして判断を示し、追加的な開示要件(additional disclosure requirement)があるとしてきました。

その後、カナダ最高裁判所は、Teva Canada Ltd. v. Pfizer Canada Inc., 2012 SCC 60において、このような追加的な開示要件を否定しましたが、本訴訟の争点が有用性とはならなかったことから、この裁判所の判事事項は付言(obiter dictum)に過ぎないとして扱われています。

2014年7月2日、カナダ連邦裁判所のRennie判事は、AstraZeneca Canada Inc. et al v. Apotex Inc. et al, 2014 FC 638において、「有用性に関する適切な開示要件についての正式な決定はない」とした上で、Wellcome事件において厳格化された開示要件は全てのSound Predictionに適用すべきではなく、既知化合物(old compound)の新規用途クレームを有する特許(新規用途(new use)発明)に対してのみ適用すべきと示しました。本判決の中で、Rennie判事は、「事実的根拠」及び「妥当な一連の理由」が明細書に記載されているべきとの条文上及び判例上の根拠が無いことを指摘し、「有用性が特許による独占と引き換えに与えられる唯一のものである(utility is the only thing being offered in exchange for the patent monopoly)」既知化合物の新規用途クレームにのみ追加的な開示要件を課すとの考えを示しています

カナダにおける有用性要件具備のための対策

2014年のAstraZeneca Canada v. Apotex判決により、出願人にとっては有利な判断が示されているものの、最高裁判所による最終的な判断が示されていないことから、現状では流動的と考えられているようです。出願時の対策としては、厳格な要件が課された場合のために、有用性の根拠を明記すると共に、根拠に利用可能な論文等は全て明細書中で明示することが推奨されます。また、出願済みの特許に関しては、第二用途発明でない場合には、AstraZeneca Canada v. Apotex判決を引用して、厳格な記載要件が課されるべきではないことを主張することが考えられます。