プロダクト・バイ・プロセス・クレームの是非

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1.プロダクト・バイ・プロセス・クレーム

 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以後、「PBPクレーム」)とは、物の発明に係るクレームでありながら、製造方法の記載を有するクレームをいう。PBPクレームの一例を、以下に2つ挙げる。

(例1)
 請求項1記載の製造方法を用いて、二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板。

(例2)
 外殻体と弾性体とを含む止め具であって、前記外殻体は、孔と中空部とを有し、前記中空部の内壁面が球面状の連続体であり、前記孔は、前記外殻体の外部から前記中空部へ通じており、前記弾性体は、通孔部を有するOリング状部材であって、前記中空部の内部に内蔵され、その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接しており、前記通孔部は、前記孔に通じており、前記弾性体は、前記外殻体の前記孔を通って、前記外殻体の内部に導入される、止め具。

 上記の例1は、典型的なPBPクレームであり、物の構成・成分にて特定せず、完全に製造方法のみ(下線部)により特定された物の発明に係るクレームである。

 一方、上記例2は、一見すれば、どこに製造方法の記載が存在するか判別困難ではあるが、下線部に製造方法(この場合、組み立て方法)の記載を含む物の発明に係るクレームである。

2.PBPクレームの解釈

 PBPクレームに係る発明の技術的範囲が当該クレーム記載の製造方法により製造された物の発明に限定されて解釈されるか、それとも当該製造方法以外の方法により製造された物も含め得るように解釈さるかについて、二つの対立する解釈がある。前者の解釈を「限定説」と称し、後者の解釈を「同一性説」と称する。

 限定説は、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて解釈されるのであるから特許請求の範囲に記載された製造方法を無視して技術的範囲を解釈すべきではないとの考え方を拠り所とする。

 同一性説は、物の発明を当該物の構成・成分によって特定困難であり物をその製造方法の記載をかりて特定するのが適切な場合があるところ、特許請求の範囲が製造方法の記載を用いて物の発明を特定しているからといって製造方法の発明と異なり製造方法の記載に構成要件的機能を厳格に問うべきではないとの考え方を拠り所とする。

3.査定系におけるPBPクレームの解釈は同一性説にて確立

 日本の審査・審判および審決取消訴訟(査定系)におけるPBPクレームの解釈は、同一性説による解釈にてほぼ確立されている。すなわち、製造方法に新規性あるいは進歩性が認められる場合であっても、その製造方法自体の新規性あるいは進歩性を考慮せず、その製造方法の記載を用いて特定された物と、公知の物との同一性から当該物の発明の特許性が判断される。このため、その製造方法によって物の新規かつ斬新な特徴が認められない限り、特許出願が拒絶あるいは特許が無効になる。

4.侵害系におけるPBPクレームの解釈は同一性説による解釈と限定説による解釈が併存

 侵害訴訟におけるPBPクレームを同一性にて解釈する裁判例は数多く、限定説によるものは少数派である。

 しかし、完全に同一性説若しくは限定説により解釈すべきとの判決は少なく、いずれか一方を原則、他方を例外として採用するとの考え方が多い。

 例えば、平成12年(ワ)第27714号特許権に基づく製造販売禁止等請求事件(東京地方裁判所、平成13年11月22日判決)は、『特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すべきであるから、その解釈に当たって、特段の事情がない限り、明細書の特許請求の範囲の記載を意味のないものとして解釈することはできない。確かに、物の発明において、物の構造及び性質によって、発明の目的となる物を特定することができないため、物の製造方法を付加することによって特定する場合もあり得る。そして、このように、特許請求の範囲に、発明の目的を特定する付加要素として、製造方法が記載されたというような特段の事情が存在する場合には、当該発明の技術的範囲の解釈に当たり、特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定することが、必ずしも相当でない場合もあり得よう。』と判示し、原則として限定説にて解釈すべきとする。

 また、平成19年(ワ)第35324号特許権侵害差止請求事件(東京地方裁判所、平成22年3月31日判決)は、『物の発明について、特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には、原則として、「物の発明」であるからといって、特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく、当該特許請求の範囲は、当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって、物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり、当該物の製造方法によって、特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り、当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も、当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。』と判示し、先の例と同様、原則として限定説にて解釈すべきとする。

5.米国におけるPBPクレームの解釈

 一方、米国では、最近になって、侵害系でのPBPクレームの解釈に関し、限定説による解釈に統一する重要なCAFC判決があった(Abbott Labs., et al. v. Sandoz, Inc., et. Al, CAFC, 2009)。

 今まで、米国の侵害訴訟において、限定説(例えば、Atlantic Thermoplastics Co. v. Faytex Corp., 970 F.2d 834, CAFC, 1992)と同一性説(例えば、Scripps Clinic & Resarch Foundation v. Genentch,Inc., 927 F. 2d 1565, 1583, CAFC, 1991)とが対立していた。

 今回のCAFC判決では、最高裁判決(Smith事件(1877)およびGoodyear事件(1880)における限定説を支持するものであり、CAFCは、PBPクレームの権利範囲は当該クレームに記載されたプロセスに限定され、他のプロセスにより製造された被疑侵害品は特許権侵害にあたらない、と判示した。

6.PBPクレームの是非

 日本における査定系では、PBPクレームは、製造方法の記載自体の新規性および進歩性は考慮されず、その製造方法により製造された物と同一と考えられる物が公知であれば、特許性は認められない。一方、侵害系では、製造方法の記載に限定解釈される限定説が原則であり、PBPクレームの保護範囲は、広範に認められにくい。これは、米国でも同様である。

 

 このことは、PBPクレームは特許になりにくく、かつ特許になっても権利範囲は狭く解釈されることを意味する。

 

 したがって、PBPクレームは、どうしても物としての物理的特徴(形状、構造、組成など)にて特定できず、特定の製造方法によってのみ物としての作用・効果が高いことを証明できるような場合にのみ作成すべきであり、徒に作成すべきではないと考えられる。