日本弁理士の秘匿特権は通用するか?

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1.ディスカバリー

 米国には、日本と異なり、ディスカバリー(証拠開示手続き)の制度と、故意侵害による三倍賠償の制度がある。ディスカバリーにより、被疑侵害者側が故意に米国特許権を侵害していたことを示す証拠が見つかった場合、三倍賠償というペナルティが科せられる危険性がある。ここで、ディスカバリーは、裁判所主導により、当事者双方が相手方に質問状を提出し、さらに証拠の提出を求めるものである。ディスカバリーは、相手方への文書提出を強制する制度である。ただし、ディスカバリーによって提出することを免除される文書がある。その開示対象外(例外)を秘匿特権という。秘匿特権には、弁護士依頼人秘匿特権(Attorney Client Privilege)と、弁護士作成文書(Attorney Work Products)の二種類がある。

2.秘匿特権とは(*)

 Attorney Client Privilegeは、弁護士と依頼人との間の通信を対象としている。一方、Attorney Work Productsは、弁護士による法的見解など(例えば、鑑定書)を指す。これら秘匿特権で言う「弁護士」は、Attorney(Patent Attorneyも含まれる)であって、Patent Agentを含まない。Patent Agentに関しては、USPTOへの出願手続きについての通信にのみ秘匿特権が認められ、法的アドバイス等の通信には認められない。また、依頼人が第三者に開示した文書については、秘匿特権の放棄とみなされ、提出対象となる。なお、外国の弁護士あるいは弁理士との通信については、一定の条件の下で、秘匿特権が認められる。

3.外国の弁護士若しくは弁理士の秘匿特権(*)

 外国の弁理士(日本の弁理士である)に秘匿特権が認められた有名な事件に、Eisai v. Reddy's case(Dec. 21, 2005, U.S. District Court Southern District of N.Y.)がある。この事件では、原告Eisaiが、被告Reddy'sから要求された文書を、日本弁理士の秘匿特権で保護されていることを理由に拒絶し、その是非を巡って争われた。被告Reddy'sは、Bristol-Myers case(1998判決)において、フランス弁理士と依頼人との間の文書に秘匿特権を認めなかった例を持ち出し、本件においても日本弁理士が作成した法的助言文書に秘匿特権は認められない旨、主張した。

 しかし、裁判所は、日本弁理士が特許等の代理、知財関連契約に関する助言、知財関連訴訟における弁護士の援助等の職務を行っていることを前提に、外国法尊重の原則(comity)から、米国の秘匿特権と外国のそれとの厳密なる一致を問わずに、日本国で認める秘匿特権を米国でも認めるべきとの判断を下した。なお、Bristol-Myers caseで、秘匿特権を認めなかったのは、フランスでは、フランスの弁理士に文書提出に関する秘匿特権を認めておらず、米国で認める必要性が無かったためである。

 ここで、特筆すべきは、日本弁理士と依頼人との間の全ての文書に秘匿特権が認められるわけではないことである。例えば、日本弁理士が作成した米国特許侵害に関する鑑定書などは、米国特許法およびプラクティスに基づく判断である限り、秘匿特権の対象外である。日本弁理士が、米国特許対応の日本特許につき、日本特許法およびプラクティスに基づきその侵害成否を判断した鑑定書であれば、秘匿特権の対象になる。

(*)青木高,"アメリカ特許訴訟における日本弁理士の秘匿特権"パテント,Vol.59 No.11(2006)の論文を参考にしましたので、詳細は、同論文を参照願います。